「特別区」は、東京23区の正式名称です。
横浜市や川崎市といった市町村と同じ「基礎的な自治体」で、住民にもっとも身近な行政を担っています。
東京23区には千代田区、港区、渋谷区、世田谷区といった様々な区がありますが、それぞれが独立した自治体です。
しかし職員の採用試験は23区合同で行っています。
たとえば、
「千代田区の職員になりたい!」
「渋谷区の公務員になりたい!」
「世田谷区で公務員としてはたらきたい!」
といったように、23区のどこかの公務員になりたいなら、まずは23区の合同試験である「特別区採用試験」に合格する必要があります。
そして「特別区採用試験」に合格した後に千代田区や世田谷区など、それぞれの区の面接試験を受けて合格すればその区に採用内定という流れになります。
といっても、まだよく分からないと思います!笑
そこで今回は、特別区Ⅰ類採用試験(大卒レベルの試験のこと)について初めての人でも分かるように徹底解説します!
それだけではなく、特別区を受けるにあたって「絶対に知っておくべき知識」や「試験の正しい対策法」までお伝えします!
- 千代田区
- 中央区
- 港区
- 新宿区
- 文教区
- 台東区
- 墨田区
- 江東区
- 品川区
- 目黒区
- 大田区
- 世田谷区
- 渋谷区
- 中野区
- 杉並区
- 豊島区
- 北区
- 荒川区
- 板橋区
- 練馬区
- 足立区
- 葛飾区
- 江戸川区
- 特別区人事・厚生事務組合
- 特別区競馬組合
- 東京二十三区清掃一部事務組合
特別区Ⅰ類採用試験・衛生監視(衛生)職の受験資格
年齢要件と資格要件の2つを満たしている必要があります。
年齢要件
41歳未満の人が対象です。
事務職と同じく、日本国籍を有していることが条件です。
資格要件
次の資格を両方とも有していることが条件です。
- 食品衛生監視員
- 環境衛生監視員
ちなみに、試験合格後の3/31までに上記資格をもっていれば問題ありません。
つまり、受験申込時点では上記資格は必要ありません。
もっといえば、内定から3/31までの間に上記資格を取れれば良い、ということです!
特別区Ⅰ類採用試験のスケジュール
まず、採用内定までの流れについて解説します。
ざっと簡略化すると、以下の5ステップが必要です。
このように、「特別区採用試験」と「各区の試験」の2段階に分かれています。
特別区職員採用試験に合格しただけでは、まだどこの区の職員になるかは決まっていません。
その後の区面接に合格してはじめて採用内定になります。
では、令和6年度のスケジュールを基に採用内定までの流れを見ていきましょう。
- 3/8試験・選考案内・申込書の配布開始日
- 3/8~3/25受験申込
原則インターネット申込。
面接カードを提供する。区を第1希望~第3志望まで書く。 - 4/211次試験
筆記試験(教養試験+専門試験+論文試験)
- 6/141次試験合格発表
合格通知に2次試験の試験日、集合時間および試験会場が載っている。
- 7/8~7/182次試験(対策はこちら)
個別面接(人物及び職務に関連する知識等について)。いわゆる人事院面接。
- 7/30合格発表
7/30~区面接合格順位、希望区等を考慮し、特定の区から面接の連絡がある。
※自分で面接を受けたい区を選ぶことはできない。- 採用内定
受けた区から採用内定連絡がくればおしまい。
もし受けた区の面接がダメだった場合、別の区から区面接の案内がくる。その繰り返し。
このように、一般的な公務員試験にあたる「特別区採用試験」を受験して合格したあとに「区の面接試験」があります。
国家公務員試験の官庁訪問のように、自分からどの区を受けるか選ぶことはできません。
「合格順位」と「受験申込のときに書いた希望区」を考慮し、もっとも適切な区が選ばれ、その区からあなたのもとに面接案内の連絡がきます。そして、その区の面接を受験し合格すれば採用内定になります。
もし区の面接で残念な結果になったとしても、次に適切な区からまた面接案内の連絡がきます。その面接で合格すれば採用内定、だめならその次の区から面接案内がくる…この繰り返しです。
特別区採用試験に合格すれば、よほどのことがない限りどこかの区に採用されますので過度な心配は無用です。
区面接についてはこちらの記事で徹底的に解説しています。
特別区Ⅰ類採用試験の試験内容
内定までに受けなくてはならない試験は全部で3つあります。
特別区採用試験の1次試験、2次試験。そして、その後に待ち構えている各区の面接試験です。
それぞれ何をやるか?解説していきます。
1次試験
最初の関門が1次試験です。
教養、専門、論文をすべて一日でやるハードな試験です。
最も配点が高いとされている論文試験が最後にあるのがポイントです。
疲弊した中でも安定して論文を書けるスキルが必要になります。
教養試験
最初に教養試験が行われます。
一般教養についての五肢択一問題が48問出題され、40問必須解答です。
制限時間は120分。正直かなり時間はギリギリです。
出題範囲は次の通り。
- 知能分野(28 題必須解答)
- 文章理解(英文を含む)
- 判断推理
- 数的処理
- 資料解釈
- 空間把握
- 知識分野(20 題中 12 題選択解答)
- 人文科学 4題・・・倫理・哲学、歴史及び地理
- 社会科学 4 題・・・法律、政治及び経済
- 自然科学 8 題・・・物理、化学、生物及び地学
- 社会事情 4 題・・・社会事情
難易度はスタンダードですが、他の自治体ではあまり出題されない資料解釈と空間把握が出題されるのがポイントです。
やや癖があるので、資料解釈と空間把握は毎日1問だけでも解いてみて感覚を磨きましょう!
もう一つの特徴として、選択科目の自然科学の割合が高いことです。
- 人文科学 4題・・・倫理・哲学、歴史及び地理
- 社会科学 4 題・・・法律、政治及び経済
- 自然科学 8 題・・・物理、化学、生物及び地学
- 社会事情 4 題・・・社会事情
自然科学だけ8問も出題されます。
他の自治体よりも自然科学を重視した出題になっています!
ですので、自然科学を選択科目として勉強するのが効率的です。
「どの科目を選択すればいいのか?」についてはこちらで詳しく分析しています!
さて勉強方法ですが、それぞれの科目について1冊程度、参考書で勉強してから過去問を解きまくるのがオススメです。
もちろん、文章理解や英語など、参考書なんてなくても大丈夫な科目はいきなり過去問でもOKです。
ちなみに参考書は必ず本屋で現物をめくりながら選んでください。
公務員試験は特に参考書によって「合う」「合わない」が大きいので、ネットのレビューや評価ではなく、自分の目で確かめることが重要です。
過去問集のおすすめは定番の「東京都・特別区[1類]教養・専門試験 過去問500」です。
特別区は過去問と似た問題が出されることが非常に多いので、過去問を解きまくることが最大の対策になります!
ちなみに「東京都・特別区[1類]教養・専門試験 過去問500」には東京都の過去問も載っていますが、余裕がある人は東京都の教養試験の過去問も解いてみたください。
なぜならば、教養試験では特別区と東京都の傾向がものすごく似ているからです。
東京都の過去問と似た問題が特別区でも出たケースが何度もあります!
過去問を繰り返し解くのが一番の対策です。
テキストは人によって合う・合わないがありますので、あなたに合ったテキストを探しましょう!
専門試験
食品衛生監視員、環境衛生監視員の範囲とほぼ同じで、難易度は低めなので、特別な勉強はいらないかと思います。
心配ならば過去問をざっと見て、不安そうなところは食品衛生監視員、環境衛生監視員の対策テキストでおさらいする流れで間違いないと思います。
論文試験
テーマが2つ出題されて、そのうちの1題を選んで論述します。
字数は1,000字以上1,500字程度。
制限時間は80分。かなり急いで書かないと厳しい時間です。
時間が足りなくて書ききれなかった受験生が毎年います・・・
特別区では論文の配点がとてつもなく高いと言われているので、すばやく正しく書くスキルが必要です。
しかも、教養試験と専門試験が終わって疲れ切っている状態でやらなくてはなりません。
すばやく正しく、安定して論文を書ける決定的な方法を以下の記事で徹底的に解説しています。
2次試験
1次試験に合格した後に、2次試験が待ち構えています。
例年7月上旬~下旬のいずれか1日を試験日に指定されます。
平日を指定されることもあるので、学校や職場の休みを取ることを忘れずに!
特別区採用試験は2次試験までなので、これに合格すれば余程のことがない限りどこかの区に内定はもらえます。
試験内容は面接1回のみです。
対策はこちらで徹底的に解説しています!
区面接
2次試験に合格すると、あなたの希望と成績をみて、もっとも適切な区から連絡が来ます。
そして、その区の面接試験に挑むことになります。
これに合格すれば、晴れてその区へ採用内定です!
ほとんどの区は個別面接1回のみですが、一部では集団討論などを行う区もあります。
詳しくはこちらで解説しています。
特別区Ⅰ類採用試験・衛生監視(衛生)職の倍率
特別区はとても人気ですが、採用人数が多いうえに衛生監視(衛生)職は穴場なので倍率はかなり穏やかです。
有名民間企業の採用倍率が平気で数十倍、数百倍に達することを考えるとコスパは最強といえます!
年度 | 2023 | 2022 | 2021 |
---|---|---|---|
事務 | 2.5 | 3.6 | 4.8 |
福祉 | 1.6 | 1.8 | 1.9 |
心理 | 3.3 | 3.1 | 2.6 |
衛生監視(衛生) | 1.8 | 1.7 | 2.3 |
土木 | 1.8 | 1.6 | 2.0 |
造園 | 1.5 | 1.4 | 2.6 |
建築 | 1.4 | 1.4 | 1.7 |
機械 | 1.7 | 1.6 | 2.0 |
電気 | 1.5 | 1.8 | 3.0 |
ただし希望区に行くためには、倍率が一気に上がる
公表されている倍率はあくまで「特別区採用試験の倍率」です。
冒頭で紹介した通り、特別区採用試験の後に各区の面接試験があります。
公表されている倍率には区面接の倍率は含まれていません。区面接でも当然、合格・不合格はあります。
人気区の場合は区面接が本番と言っても過言ではありません。区面接を考慮すると、倍率は一気に跳ね上がります。
たとえば、一番人気のX区の採用予定人数が5人だったとします。合格者150人のうち、25人がX区を第一希望にしていた場合、X区の倍率は単純に5倍ということになります。つまり、特別区採用試験の倍率に加えてこの5倍も考慮すると、他の人気自治体をはるかに上回る倍率ということになります。
したがって、公表されている特別区採用試験の倍率は「どこでもいいからとりあえず、どこかの区に採用される倍率」だということです。
希望区に採用されるためには、より一層万全の対策が必要です。
特別区Ⅰ類採用試験・衛生監視(衛生)職の勤務地・職務内容
衛生監視(衛生)職のは特別区の衛生監視業務に特化した公務員としてはたらきます。
したがって、異動が多い事務職と比べて衛生監視の仕事に専念できる体制になっています。
主な勤務地
基本的には本庁勤務ではなく区の施設で勤務します。
区にもよりますが、庁外施設は本庁舎よりアクセスがいい場所にある傾向があります。
主な職務内容
区にもよりますが多くの場合、担当するエリアが決まっていて、その範囲で検査・指導をします。
ですので、裁量が大きく、比較的自由にはたらくことができることがメリットだと言う人が多いです。
本庁にありがちな無駄な内部政治やしがらみに心を潰すことがないので、やりがいがあると思います。
絶対に知っておくべき特別区Ⅰ類採用試験の特徴と対策!
多くの自治体と併願できる!
特別区Ⅰ類採用試験は例年、他の公務員試験よりも1か月ほど試験日が早いのが特徴です。
多くの公務員試験と日程が被らないので、併願先が豊富です。
逆に、他の公務員試験が本命で、腕試しや滑り止めのために特別区を受験する人も数多くいます。2次試験の辞退率の高さがそれを物語っています。
試験内容がスタンダードなので、他の公務員試験と併願してもあまり負担になりません!
ただし、東京都庁Ⅰ類Bとは併願ができない
特別区Ⅰ類は東京都庁Ⅰ類B採用試験と例年日程が同じなので併願できません。
おそらく、人材の奪い合いを防ぐ目的があるのだと思います。
また、特別区経験者採用、氷河期採用とも併願できません。
受験資格的にはⅠ類も経験者も氷河期採用も受験できる方もいるかもしれませんが、そのうち1つしか受験できないので注意です。
希望の区に採用されるためには上位合格する必要がある!
特別区と一言にいってもまったく別の魅力や特徴があります。例えば港区と葛飾区は趣が全然違いますし、渋谷区と千代田区は雰囲気が真逆です。
ですが、どちらも特別区です。そして、どちらの職員になるにしてもこの特別区職員採用試験を突破する必要があります。
こちらの記事で詳しく解説していますが、希望の区に採用されるには特別区職員採用試験で上位合格することが必要です。
特別区職員採用試験自体はそこまで合格難易度が高くありませんが、上位合格して希望の区への採用を目指す場合、一気に難易度は跳ね上がります。
したがって、配点が非常に高い、論文と面接に力を入れる必要があります。
最終合格は総合判断(リセット式ではない)
最近では1次試験の結果は最終合格に使わないという自治体がほとんどです。いわゆるリセット式という方式です。
一方で特別区Ⅰ類採用はリセット式ではないので、1次試験の成績も最終合格に使われます。
したがって、面接が苦手な人でも一次試験で頑張って点数を貯めておくといった戦略をとることができます。
合格すれば3年間は採用候補者になれる
特別区採用試験に合格すれば、「採用候補者名簿」というものに登録されます。
「採用候補者名簿」とは、簡単に言えば合格者一覧のことで、この一覧の中からそれぞれの区が人材を採用していきます。
で、今までは「採用候補者名簿」に登録される有効期間が1年だけでした。
つまり、合格したら次の年の4月から特別区で働くか、内定辞退するか選ばなくてはなりませんでした。
例えば2023年度の特別区採用試験に合格した場合、2024年の4月から特別区で働くか、それとも辞退して別の自治体や民間企業に行くかを選ばなくてはなりませんでした。
至極当然ですよね
しかし!令和6年度からは「採用候補者名簿」に登録される有効期間が3年に延びました!
つまり3年に延びたことによって、
- 最終合格後に大学院へ進学し、3年後に採用
- 最終合格後にNPOや民間企業等へ就職し、2年後に採用
といったこともできるようになりました!
例えば、就職の不安を抱えずに思いっきり大学院で研究に没頭することもできますし、民間企業を経験してみて、辛かったり合わなかったりしたら特別区に就職する、といったこともできます。
何なら3年間遊びまくっても、世界を旅しても、何したって良いんです!
就職先の不安なく自由に過ごすことができます。
3年以内なら試験を受けずに特別区に採用されることができます。
特別区という優良カードを残したまま、好きな選択をできるなんて夢みたいですね!
ちなみに、どの採用年度を希望する場合でも、受験申込みをする際に、希望する区・組合を第1から3希望まで入力します。
ですので、例えば2年後に採用されたい場合は、受験申込の時に書いた希望3区とは別の3区を書くこともできます。
とにかく論文の配点が異常に高い
特別区採用試験の特徴は何といっても論文の配点が異常に高いことです。1次試験の6割も論文の配点が占めると言われています。
つまり、論文ができなければ落ちますし、論文さえ良ければ受かります。
上位合格して希望区に行きたいなら論文ができるのは当たり前で、さらに高得点を取らなくてはなりません。万全の対策が必要です。
面接が苦手な方は、論文で稼げるだけ稼ぐ戦略がオススメです!
特別区は他の公務員試験と比べて短期合格者が多いですが、この論文の配点比率が原因だと言われています。論文さえできれば受かりますので、論文の勉強だけに注力すればいいからです。
しかし、論文はまともに向き合うと非常に難しいうえに、点数が安定しない科目でもあります。出題テーマを知っているかどうか、イチかバチかで合否が決まってしまうこともあります。
特別区Ⅰ類採用試験のまとめ
このように特別区Ⅰ類採用は、一見スタンダードな試験ですが、他の公務員試験とは異なる特徴があります。
やりがいがありますし、待遇も申し分ありません。非常に魅力的な自治体なので、ぜひ勝ち取ってください!
衛生監視(衛生)は受験資格が厳しいだけに、倍率が穏やかで、採用後の職場も恵まれているケースが多いです。
ですので、ぜひ挑戦してみてください!
ただし、特別区に合格するためには論文・面接を避けては通れません。
なぜならば、特別区は論文・面接の配点が異常に高いことで知られているからです。
この通り、教養・専門の点数がどれだけあっても簡単に逆転が起こります。
したがって、特別区に特化した論文・面接対策を取ることが非常に重要です。万全の対策をして、確実に合格を掴みましょう!
それでは、あなたの合格と幸せな未来を願っています!